破産しても社長が自宅を残す方法

経営者の自宅を守る方法

社長
私は創業25年の内装工事を営む企業の経営者です。ここ数年、赤字が続き、資金繰りも非常に厳しい状態が続いており、残念ながら倒産は免れない状況となっています。私個人名義の自宅があるのですが、住宅ローンが残っている他、会社の借金の一部の担保にも入っています。この自宅には私の妻子の他、年老いた両親が住んでおり、何とか自宅だけは残したいと思います。
会社を破産させても自宅を残せるものでしょうか?
弁護士吉村雄二郎
大丈夫です。企業再生を目指す場合でも、弁護士を通じて自宅を残す方法があります。ただ、まずは、本当に自宅を残すべきなのか否か、その点を冷静に考えて頂いた方がよいかと思います。自宅を売却し、その資金を利用することにより企業再生にとってプラスになる場合もあるからです。
その上で、①リスケジュール、②個人再生、③任意売却、④自己破産を通じた方法によって、自宅を残すことが可能です。それぞれメリットデメリットや条件がありますので、必ず企業再生に詳しい弁護士に相談してください。
1 自宅を残すべきかを再検討する。
2 住宅ローンもリスケジュールができる。
3 個人再生によって、住宅を残す方法を知る。
4 破産しても、任意売却で自宅を残せる。

1 自宅は残せるのか?

(1) 自宅を守るべきか否か?再度検討する

企業再生の目指す経営者より弁護士の私に対し、「何とか自宅を残したい」と相談されることがよくあります。

自宅を残したい理由

  • 昔から住んで愛着のある自宅に住み続けたい
  • 子供達が自宅付近の学校に通っている。転居させるのが可哀想だ。
  • 同居している年老いた両親が慣れ親しんだ自宅に住ませてあげたい

などなど、人それぞれに様々な理由があることでしょう。

ただ、弁護士としては、企業再生を行っている経営者の方には今一度よく考えて頂きたいと思います。

自宅を売却することによって、

  • 担保を付けている会社の借金を減らせる。それにより財務状況が改善され、企業再生にとってプラスに働くのではないか?
  • 住宅ローンを精算して賃貸住宅へ転居することで、居住コストを減らせるのではないか?

ということを企業再生との関係で考えて頂きたいのです。

(2) 自宅は残せる!

それでも、自宅を残したい、という場合、残す方法はあります。

色々な条件がありますが、自宅は残せます。

以下説明しましょう。

2 リスケジュール(条件変更)で自宅を残す

(1) 住宅ローンもリスケジュールできる

会社の再生の際もリスケジュール(条件変更)の手法がありましたが、個人の住宅ローンについても同じ手法が可能です。

  • 返済期間の延長
  • 元金支払い一時停止

など、住宅ローン債権者と交渉により認められることがあります。

(2) リスケジュールのメリット・デメリット

メリット

  • 交渉により解決可能
  • リスケジュールにより住宅ローンの支払継続可能となり、自宅を守れる

デメリット

  • 住宅ローン残額はそのままで、支払期限が延びるだけ
  • 支払能力がある経営者に限定される。
  • 住宅ローン以外の他の連帯保証債務などはそのままなので、支払の窮する可能性が高い

メリット・デメリットを考えると、会社の借金の連帯保証をしている会社の経営者の方の場合、リスケジュールが有効な解決策になる場合は限られているでしょう。

3 個人再生手続で自宅を残す

(1) 個人再生手続とは?

個人再生手続きは、負債総額(住宅ローン、担保付債権のうち回収見込額、罰金等を除く)が5000万円以下の個人で、将来において一定の収入を得る見込みのある個人が利用することができる法的債務整理手続です。

個人再生手続きでは、住宅を所有している人でも、住宅ローン特則の「住宅ローン特別条項」を利用すれば、自己破産と異なり住宅を維持しながら債務整理をすることもできます。

個人再生手続きにおける弁済期間は、原則として三年間の分割払いとなっていますが、特別の事情があれば五年を超えない範囲内で延長することができます。

(2) 個人再生のメリット・デメリット

メリット

  • 自己破産と異なり住宅ローンを払い続けることによる自宅を残せる。また、住宅ローンの支払条件の変更も可能。
  • 住宅ローン以外の借金は圧縮可能
  • 浪費・ギャンブルによる債務や不法行為による債務でも債務の一部について免除が受けられる
  • 破産者のような資格制限がない

デメリット

  • 今後、継続した安定収入がある場合に限定される。従って、会社再生ができず、会社が倒産した経営者の場合、再就職先などがあり、かつ、住宅ローン+他の借金の一部+生活費が捻出できる場合に限る。
  • 住宅ローンは残り、額は減らない。
  • 住宅ローン以外の借金も0にはならない。

このように、住宅ローンの他、一部の借金は残りますので、経営者において継続的かつ安定した収入が見込まれる場合に限られます。

4 任意売却で自宅を守る

(1) 任意売却という方法

任意売却とは、自宅に住宅ローンや銀行の担保がついている場合において、担保をつけている金融機関との合意に基づいて、家を売却する手続きの事をいいます。

大体の手順は次のとおりです(事案によっては前後することもあります。)。

① 自宅の評価額を査定、資金的な協力者の了承を得る。

※協力者は資金を出してくれる親族などになることが通常です。

② 担保を設定している金融機関へ任意売却の打診

③ 担保を設定している金融機関、協力者と協議して、不動産の売却価格、金融機関への返済金額などを調整します。

④ ③の調整がついたら、自宅の協力者への売却、売買代金の支払、金融機関への弁済、不動産の移転登記、担保の抹消などの手続を行います。

⑤ ④により、自宅の名義は、協力者へ移りますので、協力者との間で、賃貸借、使用貸借などの契約をして、自宅にそのまま住むことが出来ます。

(2) 銀行にとってのメリット

このような任意売却がなぜ出来るのか?銀行がなぜ協力するのか?
疑問に思われるかもしれません。
しかし、銀行にとってもメリットがあるからこそ、実務上、任意売却がよく行われているのです。

銀行のメリット

任意売却による方が回収金額が高い

担保を設定している銀行としては、競売手続による回収する方法もあります。

競売手続は、裁判所へ申し立てる手続であり、不動産をいわばオークションにかけるように売りに出し、不動産業者などの入札を経て、最も高い金額で入札した者が買い受けをし、その買い受け代金をもって回収に充てる手続です。

ただ、競売手続で売れる金額は、市場価格を大きく下回ることも希ではなく、銀行にとって必ずしも高い回収が望めるわけではないのです。

これに対し、任意売却によれば、市場価格での売却、債権回収が可能になります。

時間、コストがかからない

競売手続を使う場合、大体半年から1年程度時間がかかることが通常です。また、裁判所へ申立をしなければならないので、その為の費用が結構かかります。このようにコストを時間がかかる上に、高く売れないのが競売手続なのです。

これに対し、任意売却によれば、それほど時間もかかりませんし、裁判所へ納める費用は煩わしい手続の負担も回避できます。

(3) 任意売却のメリット・デメリット

メリット

  • 競売の場合、不特定多数の不動産業者が入札に参加しますので、市場価格より低く落札できることもありますが、必ずしも落札できる保証はありません。任意売却の場合は、協力者及び銀行との交渉さえまとまれば、確実に自宅を残すことができます。
  • 住宅ローン残額(例:3000万円)>不動産の市場価格(例:1500万円)の場合、住宅ローンを下回る金額で自宅を守ることができる。個人再生の場合は、住宅ローン全額を支払わなければならないことと比べると、コストを下げることが出来る。特に、任意売却後、自己破産を行う場合は、住宅ローン残額も含めて借金が0になるので、コストを下げるメリットがある。

デメリット

  • 自宅を時価で買い取ってくれる協力者がいることが前提となる。
  • 破産手続き前に任意売却を行う場合、不動産の評価を公正なものとしなければ、破産手続において破産管財人に否認されるリスクがある。また、税務上の不利益を被ることもある。

以上のとおりですが、以下で説明するとおり、特に事情がなければ、自己破産手続の中で任意売却を行うのが通常です。

5 自己破産でも自宅を守る

(1) 破産手続の中で不動産はどうなる?

破産しても一定の現金・資産は残せますが、現金の99万円を除けば、大体20万円以下の時価の資産に限って残せるということになります。
その金額以上の時価のものは、破産管財人が現金に換えて、債権者へ配当することになります。不動産などは、時価で少なくとも20万円は遙かに上回るでしょうから、破産手続の中では残せないのが通常でしょう。たま、自宅には、住宅ローンや銀行からの借り入れの担保などが設定されていることが通常ですので、簡単には売ることはできません。

しかし、実は、自己破産の手続を使う場合でも、自宅を残す方法があるのです。それは特に裏技、という訳ではなく、法的に認められた方法があるのです。
但し、条件としては、親族などに、不動産を時価で買い戻すだけの資金を協力してもらえることがあります。これだけでもハードルが高いといえるでしょうが、もし、親族などに協力してもらえるのであれば、検討に値すると思います。

(2) 任意売却という方法

ⅰ まず、任意売却という方法です。

任意売却とは、自宅に住宅ローンや銀行の担保がついている場合において、担保をつけている金融機関との合意に基づいて、家を売却する手続きの事をいいます。

大体の手順は次のとおりです(事案によっては前後することもあります。)。

① 自宅の評価額を査定、協力者の了承を得る。

② 破産の申立をし、破産管財人へ任意売却による処理を申し出る。この際、協力者にて買い取りの意向も示す。また、担保を設定している金融機関にもその旨申し出る。

③ 破産管財人にて自宅を再度評価し、担保を設定している金融機関、協力者と協議して、不動産の売却価格、金融機関への返済金額、破産財団への組入額などを調整します。

④ ③の調整がついたら、破産管財人は裁判所の許可の下、自宅の売却、売買代金の支払、金融機関への弁済、破産財団への組入、不動産の移転登記、担保の抹消などの手続を行います。

⑤ ④により、自宅の名義は、協力者へ移りますので、協力者との間で、賃貸借、使用貸借などの契約をして、自宅にそのまま住むことが出来ます。

ⅱ 銀行や破産管財にとってのメリット

このような任意売却がなぜ出来るのか?銀行や破産管財人がなぜ協力するのか?疑問に思われるかもしれません。しかし、銀行や破産管財人にとってもメリットがあるからこそ、実務上、任意売却がよく行われているのです。

銀行のメリット

● 任意売却による方が回収金額が高い

担保を設定している銀行としては、競売手続による回収する方法もあります。

競売手続は、裁判所へ申し立てる手続であり、不動産をいわばオークションにかけるように売りに出し、不動産業者などの入札を経て、最も高い金額で入札した者が買い受けをし、その買い受け代金をもって回収に充てる手続です。

ただ、競売手続で売れる金額は、市場価格を大きく下回ることも希ではなく、銀行にとって必ずしも高い回収が望めるわけではないのです。

これに対し、任意売却によれば、市場価格での売却、債権回収が可能になります。

● 時間、コストがかからない

競売手続を使う場合、大体半年から1年程度時間がかかることが通常です。また、裁判所へ申立をしなければならないので、その為の費用が結構かかります。このようにコストを時間がかかる上に、高く売れないのが競売手続なのです。

これに対し、任意売却によれば、それほど時間もかかりませんし、裁判所へ納める費用は煩わしい手続の負担も回避できます。

破産管財人のメリット

● 配当原資を確保できる。

破産管財人の役割の一つとして、債権者へ配当する原資をなるべく多くかき集める、ということがあります。

しかし、破産する人が不動産を所有していたとしても、銀行の担保が付いている場合(特に、残ローン額が不動産の市場価格を遙かに上回っている場合)、破産管財人は不動産を勝手に売却することはできませんし、売却代金を債権者への配当原資に組み込むことはできません。つまり、不動産の担保は、破産手続に勝る効力を持つのです(だからこそ、銀行は担保をつけるのです。)。

ただ、銀行としても任意売却によるメリットが大きいため、売却代金のうち一部を破産手続における配当原資へ分配することを承諾することがあります。つまり、任意売却の代金の一部を破産管財人へ渡したとしても、それを上回るメリットがある場合も多く、銀行が承諾するのです。その場合は、債権者の配当原資を増やすことが出来るので、破産管財人にとってもメリットがあるのです。

破産者のメリット

競売の場合、不特定多数の不動産業者が入札に参加しますので、市場価格より低く落札できることもありますが、必ずしも落札できる保証はありません。任意売却の場合は、協力者、破産管財人及び銀行との交渉さえまとまれば、確実に自宅を残すことができます。

なお、破産手続の場合、経営者の自宅を親族が任意売却で買い取るという実例はよくあることで、破産管財人も経営者の事情を汲んで、金額の折り合いさえ付けば、協力的に動いてくれます。

(3) 競売という方法

破産手続の中で、任意売却がなされない場合、先ほど書いたとおり、銀行の担保が付いている不動産(特に、残ローン額が不動産の市場価格を遙かに上回っている場合)を破産管財人が勝手に売却することはできません。この場合、銀行は、破産手続とは関係なく、競売を申し立てることができます。

その競売において、協力者に落札してもらうのです。ただ、競売は、市場価格より低く落札できることもありますが、必ずしも落札できる保証はありません。

不動産を協力者が取得できた場合は、賃貸や使用貸借により住み続けることができます。